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季節はずれの霙の下で

卯月の半ば。

皐月は、もう目の前に迫っている。

それでも、季節外れの冷たい雨が降っている。

今夜は、俺を義理父と慕う娘の送別会。

いつも奴が主催する、騒々しいパーティではなくて、顔見知りの常連だけで送り出す。

そう聞いていたから、二つ返事で参加の意思表明をしていた。

お店についてびっくり。

主役の奴を挟み、見慣れた顔の男が二人。

たった3人?

そりゃ少なすぎるだろう・・・

さすがにそう思ったが、面子の凄さが勝る。

未完の大器の二十歳の娘を挟み、文化人、音楽人。

そして、よくしゃべるサラリーマンの俺。

軽薄な奴らが数いるよりも、奴を送り出す心を持った面子が集った。

主役の奴もきっと特別な夜と思ってくれたのだろう。

場を弁えそうにない連中は呼んでいない。

盛り上がらないならば、俺が盛り上げてやるさ。

なぁ、愛する娘よ!

場所を貸切の地下に移し、我々だけの送別会が本格的に始まる。

俺が奴に初めて出会ったのは、一年ちょっと前。

当時奴が付き合っていた彼氏に連れられて、俺達の隠れ家にやってきた。

俺は第一印象を冷静に分析して見極める。

見ていないふり、気付かないふりをして見極めようとする。

ある種、嫌なタイプの人間(笑)。

笑い話を振っても乗ってこない。

人見知りする娘(こ)なんだな・・・と印象を持っていた。

そんな奴は、暫くしてその彼氏と別れた後、何をトチ狂ったのかその店のスタッフとして働くようになった。

時たまだったが、色んな時間を一緒に過ごした。

奴はその場所を巣立ち、遠い上海へと飛び立っていく。

最初は、俺を含め前述4名での宴席だった。

だが、俺達は普通の面子ではない。

人数に反比例した盛り上がりを見せる。

冷たい雨の中、そんな陽気さに誘われたように、顔見知りの男女ペア。

奴が呼んだ、先日会った、あどけない表情のまだ嘴の黄色い彼女。

更に日本語のやたら上手な、それでいて話すスピードが亀ほど遅いイタリア人。

気付くと色んな顔が参戦して、7~8名の会になる。

騒々しい中、その文化人と義理娘の会話に聞き入る。

『こいつ、人間(人と人の心の交わり)をわかってきたな・・・』

俺は、こいつに対して何も熱く語ってやる必要は無いと確信した。

こいつならば、きっと高く飛べる。

アホウ鳥の勇姿が目にうかんだ。

ははは。

『アホウ鳥』って言ってやると、丸い黒目勝ちの目を吊り上げて怒るに違いない。

だが、かなりの賞賛を込めているからこそ『アホウ鳥』なんだ。

アホウ鳥は、数いる鳥の中でも飛翔力は随一といわれている。

ひと度風に乗れば、平気で数千キロ飛べるらしい。

ではなぜ、『阿呆(アホウ)』と、ありがたくも無い呼び名を戴冠しているのか?

アホウ鳥は、純粋なるが故に警戒心が無い。

素晴らしい鳥体と羽毛をもっていたため、剥製と羽毛を求める人に狩られた。

網でいとも簡単に捕獲できる彼らを、人間は『アホウ鳥』と名づけた。

大きな心を持ちながら、丸っきり警戒心の無い未完の大器。

あいつには、その『アホウ鳥(アルバトロス)』という称号を与えてやろう。

アホウ鳥が舞い上がれる貿易風だけ吹かせられたなら、俺の役目は終了。

先に家路につく。

都心から、わずか15kmばかり北西に離れた、横浜市の北端に到着した時には、冷たい雨は雪交じりの霙に変わっていた。

電車からバスへと乗り継ぎ、停留所でタラップから歩道に降り立った瞬間に、危うく足を滑らせそうになった。

傘をさしながら、トボトボと慎重に歩を進める。

白い息を吐きながら、急坂を進む。

ふと、晴れ渡った青い、南の空へ向かって飛ぶ、アホウ鳥の白い勇姿が脳裏に浮かんだ。

『お前ならば大丈夫、高く翔べるから。』

その光り輝く真っ白なアホウ鳥に向かって語りかけてみる。

俺は足元に気をつけながらトボトボと歩いている。

季節はずれの霰の下。

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