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三十数年ぶりの『なんじゃいっ?こら~っ!!!』

今日は早めに仕事を終えた。

小学校時代からの竹馬の友に会うため。

彼は、規模は小さいながらも、とある外資系企業の社長さん。

だが、俺達は昔のツレだから、彼が俺に偉そうに振舞うことは絶対にない。

『銀座に出て来れないか?』と誘いの一言。 

約束の20時過ぎ迄、久しぶりに大通り沿いをウィンドウショッピングする。

どうやら、俺に対してお礼がしたかったらしい。

彼が奥さんへの誕生日ギフトの手配を頼んできた。

ライバル企業である、俺の勤める会社の製品の手配を頼んできた。

奥さんの、たっての希望だったようだが、仮にも、雇われの身であっても社長様。

頭を下げて頼むのは、気持ちの良いものではなかったろう。

そう察した俺は、その日のうちに用意して、自ら届けてやった。

そのお礼の気持ちだったようだ。

彼は今夜、夜通し本社のある英国とビデオ会議が待っている。

『あいつら火山灰で動けないから、鬱憤を俺にぶつけてくるだろうが、こっちは今日の売り上げが、滅法いいんだよ!』 

上機嫌で話する彼と、一時間ばかしの楽しい刻を、焼き鳥屋で一緒に過ごし、俺が腰を上げる仕草を出してきっかけを作り、笑顔で別れた。

・・・ここまでは、とっても気分が良かった。

銀座からは、銀座線に乗り表参道で半蔵門線に乗り換えて、自宅へと向かうことになる。

半蔵門線の急行電車は混み合っていた。

体の大きい俺は、できるだけコンパクトになろうとドア横の角へ体を入れる。

後から突入してくる人の波。

できるだけ邪魔にならないよう努力するが、いかんせん体が大きいのだけは、どうしようもない。

最後の一人、サラリーマン風の30代ぐらいの男性が押しこむように乗車してきてドアが閉まる。

『ん?』

そのサラリーマン君が、グイっと肩を回すように小突いてくる。

気のせいか??

もう一度、その行為を繰り返す。

俺のバッグでも当たったのかな・・・すまなさそうに肩をすぼめて見せ、小さく頭を下げ『スミマセン・・・』のボーズ。

明らかに敵意がある視線を、後方斜め45度に立っている俺に対して、振り返るようにしてぶつけてきた。睨みつけてきた。

一度、首と視線を正面に戻し、もう一度同じ睨みつけ。

最後に、『ちぇっ!』と舌打ちして、更に、ガラス越しに睨みつけてくる。

『なんじゃいっ、こいつぁ? ワシになんかインネンでもあるんかいっ?』

出たっ! 

二十数年ぶりの広島的小龍(グァンタオ・ダ・シャオロン)が、少しだけ目を覚まし頭をもたげた。

もう、喧嘩をするほどの子供でも、馬鹿な大人でもない。

それでも、広島弁で囁くもう一人の俺。

はるか昔に置き去りにしてきたはずの、やんちゃな俺がつぶやく。

『態度の悪い奴ぁ、ちょっと、懲らしめちゃらんといけんじゃろうが・・・のぉ?』

あ~あ・・・。

まるで菅原の文さん。

自分の名誉のために述べるが、決して頭に血が上っていたわけではない。

きちんと礼を尽くした後、理不尽な態度に晒されたため、 『懲らしめたい』感情が湧いた程度。

だって、今夜の俺は、すごく気持ちが良いまま帰宅したかったのだ。

竹馬の友とは、広島で一緒に幼少期を過ごした。

俺達の育ちが悪いわけではないが、広島市の端にある海岸線の町に育った人は、漁師言葉の影響からか、その人格等に関わらず、本当にガラが悪い言葉を使う。

今夜のささやきは、まさに『仁義無き戦い』の菅原の文さんを、更にガラ悪くしたような、思春期当初ぐらいの俺のもの。

真の広島人の広島弁・・・

次の駅は渋谷。

少しだけ人が降り、多くがまた乗ってくる。

足の動かせるスペースが開いてしまった。

体の向きと位置を変え、そいつの真後ろに真っ直ぐの仁王立ち。

俺は、斜めから人様を睨みつける行為は大嫌いっ。

正面から正々堂々と視線を飛ばし合うのが男同士。

ガンを飛ばすとは、そういうこと。

東急田園都市線へと線路は進むが、三軒茶屋でも、まだ地下を進んでいる位置。

真後ろに仁王立ちする海坊主は、嫌でもガラス越しに写る。

更に、本を読もうとおでこ付近に跳ねあげていた、青色の勝ったメガネを降ろし、かけなおす。

ん~、傍目に見たらグラサンかけた、やばいオッサンかなぁ・・・

そいつ、最初のうちは威勢良くガラス越しに、執拗に睨み返してきてた。

普段の俺は本当に人畜無害で飄々としている。

自分から詫びる必要無くとも、すぐに詫びる。

さっきのように。

しかし、その争いを嫌う鳩派の俺は既に姿を消し去り、別人が立っている。

スイッチをすっかり入れ替えた。

錆びてはいるが、硬派でタカ派の俺が立っている。

そいつの真後ろで、両腕を組んでガラス越しではあるが真正面から目線を外さずに立つ。

そいつ、こちらを確かめるように振り返り、目線が合った瞬間、慌てたように首を戻す。

『なんじゃ、わりゃあ?』

『そんな根性も座っとらんのに、人様に喧嘩売っとったんかぁ?』

首を、コキコキと回し始めた頃には、そいつはタヌキ寝入りを決め込み始めた。

『ほほ~っ』

弱い奴にはとことん強く、強そうな奴にはそれかいっ?

普段の俺は、絶対にそんな思考も志向も皆無。

そいつが見せた態度の悪さを、俺では無い他の誰かが受けたとしたら、それを向けられた人がたまらん。

『絶対に、懲らしめちゃるけえっ!』 と決めた。

そうなるともう、肝の据わり方が違ってくる。

次の三軒茶屋駅では、また人の入れ替わりがあった。

そいつの真後ろでの仁王立ちを、俺はやめていない。

多少、電車が揺れようとも、ビクともしない。

後ろから、ギュっと押してくる人の圧力。

そいつの事を、まるで恋人でも守ってやるかのように、背中からの圧力を強く踏ん張り、押し返す。

ドア枠の上に額縁があって、路線図の案内紙が挿し込まれているのだが、俺はそこに右手をつき、そいつの頭越しに、片腕一本で後ろからの圧力を押し返す。

そいつの寝たふりの視線が、薄目を開けて見ている。

俺は、右手に力を込めながらも、目線はそいつの顔から絶対に離さない。

瞬間、背中が萎んだ。そして、また寝たふりを決め込む。

『ふんっ!』 と鼻息をわざと出してやったら、『びくっ!』肩が驚いたようにあがり、こちらを怖れた表情で見てきた。

俺は、同じ45度でも、上から下方45度を見下ろすように仁王立ちしたまま。

勝負あり。

彼我の差は、小人と巨人になってしまった。

二子玉川、溝の口駅まで続けてやると、そいつは、堪らずにエスケープ。

恐らく、まだ急行電車に乗って帰らなければならなかっただろうに、接続する普通電車の方に、そそくさと逃げていく。途中、振り返る姿が何とも情けない。

『情けないのぉ』 と、若かりし頃の俺が最後の囁き。

よく考えてみればわかるだろう。

俺はとうに四十を超えている。

そんな俺が、本気で喧嘩をするはずも無かろうに。

これしきの迫力に押され、尻尾を巻いて逃げていく。

もう、二度と満員電車であの態度は取らないだろう。

情けなく尻尾を巻いて逃げていった、そいつの後ろ姿を見届け、再び、電車に乗り込む。

ふと。

笑い出したくなる衝動に駆られた。

必死で耐えるも、顔が笑っている。

ドア横に、恐らく渋谷ぐらいから乗り込んできた若い兄ちゃんが一人、こちらを見て同じように笑っている。

たぶん、事の一部始終を見ていたのだろう。

俺は、歯を見せて笑い返す。

奴も、目線が合った瞬間笑い返す。

態度の悪い奴が、情けなく逃げ去ったのがおかしかったのだろう。

同じ駅で降りてたら、一杯奢って友達になれたかもな。

無駄なエナジーを浪費したが、『良いことをしたのだ』と強制的に自分に言い聞かせ、満足した表情で電車を降りる。

改札を出て少し立ち止まり、故郷にいるオフクロの顔を思い浮かべた。

若かりし頃の俺を心から消し去り、一言。

『お母ちゃんゴメン、もうせんけえね』(笑)。 

やんちゃなガキ大将の俺が、問題を起こすたびに詫びてた母の背中。

俺は、それを見たくなくて、喧嘩も悪さも止めたのだった。

普段の、僧侶体の俺がゆったりと大股で歩いている。

俺の知っている、ある生き方の達人に見られたら『破戒僧』と笑われたかも・・・

もう、広島的小龍が起きることはなかろう・・・

あの背中が見えてしまったから。

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コメント

かっこいい、の、一言です。

しかしながら、変な輩が多い世の中。
間違っても傷つけられる事が無い様に、ほどほどに(*^-^)

投稿: R | 2010年4月22日 (木) 15時27分

コメント、ありがとうございます。
そうですね、良い年齢をしたものがとる行動ではないですね。

文末には、その反省の気持ちが滲み出ています。
心の中には硬派を持ってても、表立っては争いを嫌い、平静さを貫ける・・・そんな男が理想像ですね。 精進します(笑)

投稿: Hammer | 2010年4月23日 (金) 01時36分

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